総評
◇今年は数量も増えましたが、それ以上に全体のクオリティーが上がったように思う。季節感など着用者に寄り添ったもの創りの意思を感じます。また洒落ものへのシフトが市場の動向をしっかりと反映されているものと考えています。
◇昨年より出品数が多く、しかも手描部門が増えたと伺った。このことは業界に意欲があふれるということで、素晴らしい。古典柄だけ、既存型利用でない完全な新作が多かった。
◇各出品者の思いが詰まった作品揃いで見ごたえがあった。染の技法だけでなく、生地の地紋とのマッチングや、新たなモチーフの取組などがよくわかった。
絵羽の柄位置や、着尺の柄合せなど、もう少し工夫が必要な作品も見受けられた。
◇素材へのチャレンジ、若者・外国へのチャレンジ、技法へのチャレンジ、使用しやすさ(日常)へのチャレンジ、意欲あふれる作品。
◇全体を通して、古典にとらわれず、新しい、若い発想も取り入れた優れた作品が多かった。特にA09、B03、C08、D20、D46、E04、F05が個人的に好きです。
◇今までにないような作品が多く、皆様の意欲の高さを感じることができました。
どれも素晴らしい作品でした。
第1部門 型染着尺
◇小紋型自体は昔から変わらないものであっても組み合わせ方や上げ方、新たに彫り足したもの、型染めしにくい生地にチャレンジすることで新鮮みを出したものが今年は多かったように感ずる。
◇古作図案の使いまわしでなく、完全な新柄が何点かあったのは、素晴らしい。
◇色無地感覚、遊び心を感じる。全通し地のような染→赤は難しいかも。
オーガンジー24枚型更紗はちり除けコートにOK。三役、縦づかい。スッキリ感、
アクセントの銀彩。
◇素材へのチャレンジ、柄へのチャレンジ、色合いへのチャレンジ(若者層)
◇選んだ作品A09は特に優れた作品に感じました。(遠くから見ると平面的に感じるが、接見して詳細に確認してみると、いくつもの色が織り重なり立体的な構図等により、奥深さ(宇宙感)を感じた。
◇どの作品も小紋を繊細に染められていた。特に相が細かい作品を評価した。
第2部門 型染絵羽
◇明治以降の江戸小紋技法しごき染でのやわらかなグラデーション、型組と手挿し引き染の併用など近年の技法が光っている。温暖化している気候に対応するような両面染や薄物への染色も着用者の視点でのもの作りとなっている。
◇着物になったときの工夫(すそ回しに銀線など)を施したり、ちらりとみえる裏も模様を入れたり、工夫を重ねている。
◇上前の柄位置、色の分け目はもう少し下に。ぼかし技法。型の細かさで巧みに表現。
◇伝統技法・柄等を大切に、その上にさらにうわづみをかける(手間をかける)
◇B02、B07はいくつかのパターンが複雑かつきれいに織り重なっていて美しい。
B03は一見わからないが、しばらく見ていると、上の風向と釣り糸をはなつ漁の状況が良く描かれている。
◇近くで見る場合と遠くで見た時に見えてくる模様がより異なって作品を評価した。
第3部門 手描染作品(振袖、留袖、訪問着)
◇近年の礼装から洒落への流れにそうように訪問着では洒落ものに新たな技法でチャレンジされている。一方でフォーマルものも、確立された技法をより高めに訪問着・留袖のもの創りもおろそかにされていない。
◇さすが訪問着にふさわしい豪華なものばかり。手が込んでいる力作、昔からありながら、それでいて今では新味のある稲穂のような題材と、すばらしい挑戦。
◇ピーコック地染。黒留上品な華やかさ。白の使い方グレー地色であえて楜味。組とまき糊マッチング。
◇上品さ、優雅さを追い求める作風。「日本」にこだわらず「洋風」。
◇C01のシダがモチーフでありながら暗くなく、良い。C06の孔雀の羽根のポイントが良い。C08は油絵のような秋の黄金葉の散る美しさが表現されている。C10は砂漠の1シーンの様。C12の金糸の使い方、袖のモミジが美しい。
◇ダイナミックな図柄が多く、見ごたえがあった。手描ならではの大胆な色使いの作品を評価した。
第4部門 手描染作品(付下げ、帯、祝い着その他)
◇安定した染上りの作品が多く、数量も多いため、新たな工夫をされているものに目が行く。ム地場の多い染め分けの地場の美しさ、ぼかしを主体に柄を極力少なくした引き算の構図。彩色の配色に思いきった変化を付けた作品など、タンスにないものでしょう。
◇手描はデッサン力がでる。帯と着尺の境目をはっきり示した方が良い。わからない人もいたようだ。地紋をうまく使ったものがあった。
◇黒地染帯窓の中のぼかし。更紗帯きれいな染分け。横段やわらかな色使い。金彩のカーブ渋め好きに。
◇格式ばらず自由な作風。日常のなかに非日常感を演出しようとする意志がみてとれる。
◇D07はグラデーションとパステル感が地層の様で。D20はヴェネツィアの海の色がエメラルド(碧色)で西洋画と和のコラボが新鮮。D31はシンプルながらも金糸の使い方が控えめで良い。D46は観世水と桜の重なりが傾斜的な山の風景の様。D47は梅の花が幾何学的で美しく、かわいらしい。
◇絵画としても美しい作品がそろっていた。日本の自然の美しさが表現された印象的な作品を評価した。
第5部門 無地染
◇毎回選ぶのが難しい部門です。刺繍や紬生地のネップへ色たまりなく(もしくは少なく)染まっているものに目が行きます。
◇「手描」と「型染」に分類されない表現方法のもので、しかし無模様ではないものが無地染に入っていた。いろいろなチャレンジがあるのは良いこと。
◇地紋との相性。
◇カテゴリーの判別がむずかしい。
◇E04は黒地に飛沫が美しくリアルに、荒々しくも気高く噴射しているのが良い。
E06は三つ葉のクローバーが美しく立っている。
◇自然にムラがなく染められている作品を評価した。
第6部門 機械染
◇型染や手描ではできない機械染ならではの作品。凹凸のある生地や薄物への両面染など、機械染でないとできないものがあることで、一つの技法としての位置が作られている。
◇「機械染めならでは」と書いていたのが、技術に向きあう姿勢のあらわれ。
◇糸目の細かさ。蒔き糊の表現。機械染ならではの良さ。
◇いずれの作品も「技術(技)」とは一線を画する、別の意味で逸品。
◇F04は黒の縦縞の中に、草花がくっきりと染め分けられている。F05は金ラメが美しく散布されている。
◇手染めでは見られないような作品を評価した。
審査委員長からの総評
全般としては、着用者の意向、着用場面、気候の変化などに皆さんが対応したもの創りをしようとされていることを感じます。その為に伝統的な従来の技法の組合せ、新たな技法、今まで染めて来なかったあるいは染めるのが難しかった生地へチャレンジされていることが伺えます。
手描部門においても、フォーマルなものが少なく、型染部門も含めるといわゆる洒落ものが多く、こちらも含めると作品が多様化しており、審査員の皆様の意見(投票)も分かれており、審査基準の一つとなっている「市場性を有するもの」にまさしく合致した創りが行われていることを感じます。
小紋・友禅の技法は江戸時代に確立されましたが、明治維新の頃と前後して化学染料の導入などから様々な技法の変化がありました。技法の伝統のルーツを一時代に求めるのではなく歴史の変施の過程として現在を捉えられた染工場様の未来に向けたもの創りの情熱を感じます。
本年等73回を迎えられ年々作品の幅が広くなっているのを感じます。まず80回そして100回へと発展されることを記念しております。